今回は『もし、アドラーが「しゅうかつ」をしたら 人生を豊かにするキャリアデザイン』を出版された、グロナビ代表の長田邦博(おさだ くにひろ)氏にお話を伺いました。
36年間のビジネス経験をベースにアドラー心理学とキャリア理論を織り交ぜた独自のキャリアデザインモデルについて書かれた本書についてたっぷりとお話しいただきました。
長田邦博(おさだ くにひろ) 1960年 神奈川県横浜市生まれ |
聞き手:こんにちは。最初に、経歴と現在のお仕事のついてお聞かせください。
長田さん:大学を卒業後、日本水産株式会社に入社しました。ビジネス経験としては36年間あり、前半の26年間は営業、開発、経営企画、人事、経理といったメーカー機能のほぼすべての仕事を経験できました。
人生の大きな転機は2010年から子会社のモガミフーズに出向して経営を実践した8年間です。経営者の立場でしたので、経営全般を見るようになり、親会社の経験が役に立ちました。メーカー機能を歯車に喩えると、各歯車が一気に噛み合って、躍動的に動き出した時期がこの8年間なんですね。「自分の力が120%ぐらい発揮できていたな」というぐらい、生きがい、働きがいを実感して、心が満タンになった時期でした。また、モガミフーズ出向中の2013年に、『嫌われる勇気』という本でアドラー心理学と出会ったことも大きな転機でした。
2018年にモガミフーズから日本水産株式会社に戻りましたが、このころに「定年退職をしたら独立しよう」と思い始めて、その後、グロナビという会社を立ち上げました。「グロ」は成長という意味で、人と組織の成長を導く会社です。「人と組織の成長を導きたい」という強い思いで会社名をグロナビにしました。
モガミフーズへの出向と『嫌われる勇気』との出会い、この2つの転機がなければ、おそらく独立をしていなかったと思います。自分の第二の人生を大きく変えた出来事という感じですね。
聞き手:ありがとうございます。2021年の4月に独立されたとのことですが、出版は2021年2月にされていますね。独立前から出版を考えていたんですか?
長田さん:先ほど『嫌われる勇気』の本の話をしましたが、本を読むと、自分が経営で実践していることが腑に落ちて行く感じがあって、「なるほど、そうだね」とまるでアドラーと対話しているような感じで、すごく感動したんですよ。一晩で一気に読み切ってしまうほど、心に響いた本に出会ったのは初めてでした。
2018年に本社に戻ることになって、「この先の人生どうしようかな?」と考えたときに、「今までのビジネス経験を活かして社会に貢献したいな」と漠然と思ったんですよね。それで独立を決めて、「じゃぁ 36年間のビジネス経験の総まとめをしよう!」と思って、1年間、毎日400字の原稿を書き続けたんです。
それと、原稿の構想を考えていたときに、ふと、2013年に読んだ『嫌われる勇気』の感動が蘇って来たんですよ。「これだ!」と閃いて、原稿を書きながらアドラー心理学を本格的に学びました。
私は毎日書くことを1000本ノックって言ってたんですけど(笑)、この毎日書き続けた原稿を元に編集してできたのが今回の本なんです。
いわば、第三の卒論ですね。大学で一回、大学院で二回、そして会社人生の卒業で第三回目の卒論を書こうと思って。あとは、「名刺代わりになるものが欲しいな」と思っていたので、独立前から出版は考えていましたね。
聞き手:1年間、毎日400字を書き続けたというのはすごいですね。では、この本のテーマについて教えていただけますか?
長田さん:36年間のビジネス経験をベースに、アドラー心理学と大学院で学んだキャリア理論を織り交ぜたキャリアデザインモデルですね。人生を豊かにする1つのキャリアモデルを作りたかったんです。「しゅうかつ」モデルと「ある・成る・いる式の人生設計(ライフデザイン)」を統合したスパイラル・ハイブリッド型のキャリアデザインモデルを提言した、というのがこの本かなと思っています。ちょっと、奥が深いんですよ(笑)。
もっと言うと、この本は私のトリセツ、取り扱い説明書なんです。今までは日本水産という肩書きがあったので、ある程度社会的には信用が担保できていたんですけど、今は何もないので。この本をお読みいただければ、「私はこういう人間で、このような考え方を持っている人物です」と、トリセツというか、さっきも言いましたけど、名刺代わりと思って出版したというのもあります。
「売れる本を作ろう!」という意識と言うよりも、「私はこういう人間ですと説明するための本にしたかった」という感じですね。
聞き手:この本の読みどころはどういったところでしょうか?
長田さん:「しゅうかつ」をあえてひらがなにしているんですが、この「しゅうかつ」には3つの意味があって、そこが読みどころですかね。
簡単に紹介すると、初めの「就活」は、これは大学生が行うイメージが強いと思うんですけど、これは仕事に就く活動のことなので、もっと広い話で、転職するときもそうだし、人事異動で新しい仕事に就くというのも就活と捉えています。
その就活に一番重要なのが、ちゃんとブレない自分軸を作るということなんですけど、それを表現するために「自分企画」という言葉を私は使ったんですね。「自分探し」ではなくて、自分を企画するという事がとても重要で。探し物はなかなか見つからないので、むしろ自分でワクワクしながら作っちゃいましょうと、それの方が格段に楽しいですよね。
自分企画する時に、自分自身に色々な問いかけをすると思うんですけど、一番重要なのが、働く目的です。
今、働く目的自体が明確ではなくて、ただ仕事をして日々を過ぎしている、「俺って何やってるんだろう」とか思ってしまったりね、人生の転機でそう思ってしまったりすることも多いと思うんです。働く目的がしっかりしてないと「自分企画」ができないので、就活の章では、「働く目的が一番重要ですよ」ということをいろんな喩え話を入れながら説明をしています。
次の「しゅうかつ」は、習う活動の「習活」です。ようするに学習ですね。学習って、心理学では「経験の結果生じる比較的永続的な行動の変容」という意味なんです。
この習活は、試験勉強とかの学習ではなくて人生の経験学習をすることです。「社会に出たなら、どんな人財になるためにどんな学習をしていかなければいけないのか」を私は考えたんですね。
36年間のビジネス経験を通して、すべての会社でやるべき事、共通している本質的な部分は何かを考えると、それは「お客様のお困り事を解決する」ということだと思うんです。どんな会社に入ろうと、会社で扱う商品やサービスが違うだけで、このことは、本質的には変わらないと思うんです。お客様の問題を解決したことで、我々は、お客様からそのご褒美として給料がもらえる事を忘れてはいけないと思います。
そのためには、学習して行動変容を起こして自分も成長しないといけない。だってお客様の問題ってどんどん多様化したり、高度化、複雑化して行くじゃないですか。
ようするに、「自分も成長しながら会社も成長していくwin-winな関係というのが、一番求められる行動変容ではないかな」と思います。
じゃぁ、これを実現するためにはどういう能力が必要かということになりますよね。私はIQとEQとSQの3つの能力が必要だと思います。特に、SQ、「魂の知能指数:意味づける力」という意味なんですが、SQが非常に重要です。この3つ能力の説明は長くなってしまうので本を読んでいただければと思うのですが、「この3つの能力を身につけなさい」と言っているのが、この習活です。
最後の「充活」は、人生経験を踏まえて充たされるという事なんですけど、一言で言えば、人間力を磨いてより幸せに生きていく活動のことを指します。「『じゅうかつ』じゃないの?」と思われるかもしれませんが、「充」と言う字は、漢音では“しゅう”とも読むそうです。なので「しゅうかつ」の当て字にしました。
「充活」で心を満タンにして幸せに生きるためには、「人間力を磨く事が重要だ」と言っています。良質な経験を受容するということが一番重要です。「縁」もその1つですよね。例えば、本との出会いなんかもそうです。
あとは、苦労とか鍛錬もちゃんと受け入れてやるとか、違う価値観を持つ人と話をして刺激を受けるなど、このような良質な経験をすることによって人間力を磨くということが3つ目の充活です。
聞き手:長田さんオリジナルの表現(造語など)も使われていて、読み応えがありそうですね。図表もかなりの数使われていて、アドラー心理学の内容などもわかりやすくする工夫がされているように感じました。
長田さん:そうですね。盛りだくさんな内容になっているので、少しでもわかりやすくなるように図表はかなりの数を用意しました。約100点近く用意したと思います。
聞き手:イラストが100点!相当な数ですね。
長田さんは組織人事戦略コンサルタントとして活動されていますが、人事戦略に絡めた内容は本の中にありますか?
長田さん:経営者の視点から言えば、今後の経営、一言で言えば「人的資本経営への転換」ということなんですが、経営戦略と人事戦略を連動させることが重要になると思います。この本の中では、このことを採用と絡めて書いているんですよ。
「会社がどういう人財を求めているか」という社長の思いを言語化(可視化)することが一番必要なんですよ。その時に、経営理念から見直すケースもあります。会社が求める人財要件を人事評価制度の評価項目(要素)に落とし込んでいく、そうするとあるべき姿に社員は向かっていきますよね。これが上手くいくと、経営戦略と人事戦略が、会社が求める人財要件を軸に一体化していくわけですね。
さらに、人事戦略の1つである採用戦略にも繋げるという事なんです。会社が求める人財要件にマッチした人を採用することで、入社3年以内に辞めていくミスマッチを防ぐことができます。磨けば輝く原石をもった人を採用することで、悪循環を断ち切ることがポイントです。
聞き手:ありがとうございます。それでは、これからこの本を読む方へのメッセージをお願いします。
長田さん:経営者の方には、社員一人ひとりのエンゲージメント、すなわち「自発的貢献意欲」を高めるために、経営戦略と連動した人事戦略をどう立案すべきかという視点でお読みいただき、さらに社員のキャリア自律を支援していただければ嬉しいです。
アドラー心理学に興味がある方には、「いま、アドラーならどう行動するか」という視点でもキャリアデザインモデルを読み解くことができます。
最後に、今後この本を読む方へのメッセージとして、以下の言葉で締めたいと思います。
「人生には正解はない、あるのは解釈だけである。であれば、意味で充たされた、meaningfulな人生にしよう!」
聞き手:本日は貴重なお話をありがとうございました!
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投稿者プロフィール
- 学生や子育て中のママなど、様々なバックグラウンドを持つメンバーが所属。
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これからも有益な記事を日々発信できるよう、尽力していきます!
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