出版社が倒産する原因 本が売れても倒産するのはなぜ?

出版社が倒産する原因 本が売れても倒産するのはなぜ?

出版社が倒産する原因はいくつかありますが、多くの場合は販売不振によるものです。

しかし、中には本が売れているのに倒産する事例があります。どうして本が売れているのに倒産するのでしょうか。

今回は、出版社が倒産する原因と、他の倒産事例とはどう違うのかも合わせて解説していきます。

 

企業が倒産する3つの原因

本が売れているのに出版社が倒産する原因を知るためにも、まずは出版社に限らず、企業が倒産する原因から見ていきましょう。

出版社と普通の企業との違いも解説します。

 

販売不振による倒産

出版社に限らず、倒産の原因で最も多いのが販売不振によるものです。

特に中小企業は販売不振に陥ると、企業としての体力が少ないため最終的に倒産に至ります。販売不振とは異なりますが、過小資本も体力が少ない企業が陥りやすい倒産の原因です。

出版業界も同じように、中小企業ほど販売不振のダメージには耐えられません。

日本の出版社はその多くが中小企業のため、販売不振に陥れば倒産する可能性が高くなります。現在は出版不況と言われており、大手ですら昔からある雑誌の廃刊も相次いでいるのです。

 

業績悪化に気づかず倒産

販売不振の次に多いのが業績悪化に気づかず、気づいた時には手遅れになっているケースです。これを「既往のしわ寄せ」と言います。

売り上げが一気に落ちれば業績悪化にも気づきやすいでしょうが、少しずつ売り上げが減少している場合はなかなか気づかないこともあり得ます。

例えば、売り上げ1億円の会社が1年ごとに3%ずつ売り上げを減らした場合、5年後には売り上げは8500万円まで減ってしまいます。そのため最初のうちは内部保留で対応できても、最終的には倒産に至ってしまうというケースもあるのです。

出版社では1作ベストセラーを出した会社が、次に続く作品を出版できず、このような状態に陥ることがあります。

 

放漫経営による倒産

放漫経営は中小企業、特にワンマン経営で起こりやすいです。

取締役員の周囲に経営に対して意見をできる人間がいれば良いのですが、そうでない場合に陥りやすい倒産原因の一つと言えるでしょう。

出版業界でも過去に、多角経営や資金繰りの問題で倒産した株式会社新声社の例があります。

放漫経営で生じる人員流出による記事の質の低下も、倒産の大きな要因になります。出版社は編集部員の能力によって商品の質が大きく変わるため、放漫経営は販売不振に繋がり、やがて倒産に至ることも少なくありません。

 

出版社特有の倒産原因

多くの企業と同様に、出版社の倒産原因も販売不振によるものが多いです。

しかし、出版社には出版社特有の倒産原因もあります。これこそ、本が売れているのに倒産してしまう理由なのです。

以下に、その原因を解説します。

 

委託販売制度が原因の倒産

出版業界には委託販売制度という、特有の販売制度があることをご存じでしょうか。

通常小売店では、商品を仕入れる際は買い切りで仕入れ、値下げを含め自分たちの判断で販売を行っています。

一方、出版業界の行う委託販売制度は、仕入れ数などを小売り側で決めることができません。配本と呼ばれ、各書店に取次会社の判断で配られます。値下げもできないものの、返品が可能なため、売れなかった本は最終的に出版社に返すことができます。

この返品が原因で、倒産する出版社が出てくるのです。

大手出版社ではあまり見られませんが、中小の出版社の中でもヒット商品を出した会社で起こりやすいと言えます。

 

経験不足による倒産

委託販売制度にも関連しますが、出版業界では爆発的に売り上げが伸びる事例があります。その際に中小の出版社では、知識や経験が不足しているため十分な対応ができないことがあります。

例えば、どれくらい売れるのかが分からないため、本を必要以上に多く刷ってしまう場合があります。出版業界には返品制度があるため、売れ残った商品は返ってきた場合には大量の在庫を抱えてしまうことになるでしょう。

保管する場合は倉庫代、廃棄する場合は制作費用全てがマイナスになってしまいます。

 

また、費用対効果に見合わない宣伝やタイミングを逃した広告も同様です。

電車の中吊りや新聞、ネット広告など、広告にも種類があります。SNSも含めて、売りたい出版物によって使い分けることが重要です。

しかし、中小の出版社にはどの程度の広告費をかけ、どのような広告を展開するかの知識や経験が不足しています。そのため、広告費が業績を圧迫する事態に陥ってしまうことがあるのです。

 

他にも印税の問題があります。

比率や、発行部数と実売部数のどちらで払うのかなど、適切な判断が求められる重要な問題です。適切な判断を下すためには知識や経験が必要となり、それが不足していると他の要因と合わせて倒産してしまうことも考えられます。

 

ヒット作が続かず倒産

1作ヒットが出ても、次作以降が売れないと資産を食いつぶしてしまうといったケースもあります。ヒット作は作ろうと思っても、簡単に作ることができません。売れなかった場合、2作目のヒットを出すための無理な宣伝や、新刊を大量に出版することで、負債を抱え込むことになります。

また、本という特殊な商品は、中古でも新品と遜色なく使用することが可能です。ある程度ヒットした作品は、中古品も大量に出回るため、新品を購入する必要がありません。そのため1作ヒットしただけでは、立ち行かなくなるのです。

 

本が売れても倒産する理由

企業が倒産する理由、そして出版社特有の倒産原因を比べると、本が売れても倒産してしまう理由が見えてきます。ここからはよりポイントを絞って、倒産する理由を見ていきましょう。

 

資金繰りの悪化

本が売れても倒産する理由の1つに資金繰りの悪化が挙げられます。

本の出版には様々な工程があります。その1つ1つに費用がかかるのですが、場合によっては費用を回収できないまま終わってしまうことがあり得ます。

中小の出版社では、委託販売制度による返品や経験不足による在庫過多など、増刷のし過ぎで資金繰りが悪化することも少なくありません。赤字を補填するために新刊を大量に出版することで徐々に資金繰りが悪くなり、最終的には銀行の融資も打ち切られ倒産に至るでしょう。

 

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出版にかかる費用

本の出版にかかる費用は、大きく分けて4つです。

 

  • 紙やインク代など本を印刷する際にかかるハード面の製作費
  • 編集者の人件費
  • 宣伝のための広告費
  • 本を流通させるための流通費

 

この4つにかかる費用をいかに抑えるかが利益を上げるために重要です。

しかし、本が売れても倒産する場合の多くは本の印刷に費用をかけすぎており、出版社に入る収益が出費分に見合っていません。

そして在庫を減らすため、収益を上げるために、無理な広告で余計に費用がかさんでいきます。編集者とは別に著者がいる場合は印税の支払いも発生するため、さらに費用は増えていきます。

他にも企画や媒体によって様々な費用が発生するため、ヒット作が出ても倒産してしまう原因となります。

 

すぐにお金が入ってこない

これも委託販売制度による弊害ですが、本が売れてもすぐに出版社にお金が入ってくることはありません。

そもそも本が市場に流通するまでに出版社、取次、書店を経由します。そして書店で購入されて初めて売り上げとなり、その売り上げが出版社に戻ってくるまでに半年以上かかることも少なくありません。

大手出版社のように体力のある企業なら問題ありませんが、中小の出版社になるとタイミング次第では倒産してしまいます。ヒット作が出ても、次の作品を作るための資金が足りないというような自転車操業になるのもこのような理由があるのです。

 

まとめ

本が売れても倒産する理由には、いくつもの要因があります。

一番の要因は、委託販売制度による弊害です。委託販売制度が始まった頃は画期的なシステムでしたが、今では出版業界の足を引っ張る原因となっています。

現在は電子書籍の普及や、大手ネットショップによる試験的な買い切り方式が行われています。これに対応できるかどうかで、出版社の生き残りが左右されると言えるでしょう。

新たなビジネスモデルを確立し、本が売れているのに倒産するという状況を作り出さないことが、これからの出版業界には求められています。

投稿者プロフィール

マーケティング出版プラス編集部
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