今回は2025年7月4日に『あなたと企業の個性を活かすBtoBマーケティングDX ―失われた30年の過ちを繰り返すな』を出版された、WAIコンサルティング合同会社 代表社員社長、谷古宇 啓之氏にお話をお伺いしました。
本づくりへの思いや出版記念セミナーでの気付きなどをお話しいただきました。
マーケティング出版プラスだけの特別なインタビューです。
ぜひ最後までご覧ください!
【著者プロフィール】
谷古宇 啓之(WAIコンサルティング合同会社 代表社員社長)
中央大学で管理工学を専攻後、ITとマーケティングの双方の部門をセイコー、横河電機、リコーの3社で経験。失敗を乗り越えながら達成した在庫の半減、引き合いの10倍化、変革への経営計画の策定など、数々の成果を上げてきた。その32年にわたる実務経験ではITとマーケティングの技術を融合させた手法を確立し、対話を重視したスタイルを貫いて培った実践知を日本マーケティング協会のBtoB研究会や社外セミナーでも広く伝えてきた。
2020年に独立し、翌年WAIコンサルティング社を設立。若い世代が個性を活かして活躍できる産業界の実現を目指し、多くの企業や学会においてコーチングとコンサルティングを実施している。
【会社概要】
会社名称:WAIコンサルティング合同会社
代表者:谷古宇 啓之
設立:2021年4月
主な事業:BtoBマーケティングDXに関するコーチングとコンサルティング
聞き手:本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは書籍を出したきっかけを教えてください。
谷古宇氏:40歳の頃になると仕事を共にした関係者から「谷古宇さんが普段話していることを本にしてほしい」と言われるようになりました。すべての仕事において企画提案書を残しているし、新機能に関しては設計書も同様に組織共有しているので、当時は「それを読んでもらえればいい」と思って本気にしていなかったのですが、55歳で会社を退職してその翌年に起業して忙しく過ごしていたところ、ラーニングスさん含め出版社5社から同時期にお声がかかり、なんとなくそういう時期が来たのかと感じたことから、出版しようと本格的に考え始めました。
聞き手:最初は出版したいとは思っていらっしゃらなかったんですね。
谷古宇氏:私は元々ネガティブ思考が強いのかもしれず、「策定した戦略は本当に正しかったのか」「構築したシステムにバグは潜んでいないか」と常に恐怖を感じていて、成功すればするほどその思いが強くなっていきました。新しいことにチャレンジする際もゼロから信頼を獲得せねばならず苦悩の連続。そのような状況で出版など微塵も考えていませんでした。しかし企業に所属して活動した32年間が「失われた30年」になってしまったことを考えると、同じ過ちを繰り返さぬように次世代の人たちに私が考えて行動して得てきたノウハウを残さねばならない、と考えるようになったのです。たとえ恐怖を感じようが自分の活動が正しいのであれば、そこには必ず智慧が残っており、それは次世代の人たちが同じような恐怖や苦悩を感じないで済むようにするために「伝えていく責任」なのだ、と考えて執筆することにしたのです。
聞き手:書籍の中には谷古宇さんの経験談も豊富に入っていますが、32年分の経験からピックアップするだけでも本当に大変だったと思います。エピソードの選考基準は何かあったのでしょうか?
谷古宇氏:32年間と起業後のコンサル活動の中で、私の考えや思いを日記のようにドキュメンテーションしていました。プレゼンソフトで約1500ページにもなるそのコンテンツは日々の書き連ねであり、それを1冊の書籍に抜粋して構造化することはとても難しい作業になりました。しかし「奮闘する39歳」をターゲットに想定したので、表面的な内容になってしまった反省はあるものの、ターゲットに即したコンテンツを抜粋してある程度のストーリー性を持って整理できたと思います。
聞き手:書籍内で最もこだわった章はどこですか?
谷古宇氏:4,5章は特にこだわりました。人と組織の問題はいつの時代も大変です。人間性と論理性の組み合わせで自分自身の技を磨き、そして人とのつながりの中で活動していかねば素晴らしい日本文化を活かせないということを32年間で痛感していたので、この章は次世代の人たちへ私が伝えたいことが詰まっています。
本を執筆する際はファクトを大事にしたいと思っていました。ファクトとは、行動や実績などの結果もありますが、その際に「何かを感じた」ということもファクトです。書籍ではいろいろな考えや経験を書いていますが、読んだときに感じたことを大切にしてほしいと考えています。私が書いたことを鵜呑みにするのではなく、「この本を読んで『感じたファクト』」を大事にしてもらえると嬉しいです。読んで何かを感じたということは、読んだ人自身の思い、すなわち志があるからです。
聞き手:本づくりで苦労されたことはありましたか?
谷古宇氏:本づくりもチームワークが大切であることを実感しました。自分一人だけでは本を作って最終的に書店に置くことはできません。会社に入って仕事をするのと同じようにお互いの認識を合わせて進めていくことが大切です。また、これまでの経験や考えをまとめるだけでなく、軸を作って1冊の本として成立させることが重要でした。その軸を常に中心に考えることで、布石と回収などの様々な仕掛けを入れることができました。実際に読んでくれた人からは「3回読み返さなくては理解できませんが、読み返すたびに新たな気付きを得られます」という最高の褒め言葉をいただきました。字が詰まっているので一気に読むのは大変だと思いますが、何度も繰り返し読んで長く手元に置いていただけると嬉しいです。この本は私の実践知なのです。そのため、文章や図の情報量はどうしても多くなってしまいますが、ある出版関係者からは、通常のビジネス書と比較すると3倍の情報が詰まっています、と言われました。読みやすさよりもホワイトペーパーのようなノウハウ紹介を目指したのです。
聞き手:本書を書く原動力はどこにありましたか?
谷古宇氏:自分の世代が失われた30年を作ってしまい、その反省を次世代の人たちへ伝えなくてはいけないと強く思っていたことが一番です。バブル景気崩壊以降は日本経済の低迷が長期間続き、その結果、日本企業は競争力が低下し、将来への不安と失望を抱えて働く意義を見失ってしまった若い世代の人も多くいます。特に反省すべきは思考停止してしまっていることです。それは環境変化が激しい現代では致命傷です。実は私自身も「XXであるべき」と考えてしまうことで思考停止に陥り、多くの失敗をしてきました。そのような失敗談も含めた実践知を未来へ伝えていくのが長年のビジネス経験者の使命なのだと考え、執筆をしました。私からすると、この本は私のノウハウや智慧だけではなく、それ以上に反省を未来へ遺すものなのです。
聞き手:表紙でこだわった部分はありますか?
谷古宇氏:まずタイトルを飾っている波型のデザインに私が経験した3社へのリスペクトを込めました。青がセイコー、黄色が横河電機、赤がリコーのコーポレートカラーです。中心の紺色は、「青は藍より出でて藍より青し」という言葉になぞらえて、人が人同士の交わりから個性を活かして成長していく意味を込めたWAIコンサルティング社のコーポレートカラーです。そして曲線と直線の組み合わせは人の柔らかさと確固たる技術を表現しています。
掲載している114点の図表の内、113点は自分自身で作成したもので、表紙を見ただけで多くの図解があると理解できるように訴求しています。内容が複雑な実践知なので簡単に概要を一覧できるように目次をマインドマップ形式で簡略化したものを裏表紙に掲載しました。
聞き手:出版セミナーはいかがでしたか?
谷古宇氏:1時間のプレゼンテーションの後にITベンダーの方と共にワークショップを開催しました。その際印象的だったコメントが2つあります。
1つは若手のITベンダーの方からで、「技術は本を読んだりプログラミングをして磨いていけるが、技能はどう磨けばいいかがわからないので、この本が役立ちます」というものです。ここでいう技能とは、体得した技術をいかに相手のベネフィットに変換していくかという、人間的な特殊な能力です。これは師匠に付いたりと人の背中を見ながら学ぶものなのですが、今はなかなか職場の中にそういう存在が少なくなっています。だからこそ、セミナーや社外の人たちとのコミュニケ―ションはとても大事だと実感しました。
そしてもう1つもITベンダーの方からなのですが、「職場のストレスは大きいが、やはり自分の個性を磨いていくしかないことがわかった」というものです。相手が嫌だから、相手が変わることを考え始めたらストレスは溜まる一方なので、自分の考え方をどう変えていくか、そのためには自分の個性をどのように磨いていくかが勝負だよね、という話をしました。
これらは日本企業全体の課題だと思いますし、短いプレゼンの中でここまで考えてくださったことはとてもありがたかったですし、このようなコメントをいただけたことは出版の目的が達成できた瞬間でもありました。
聞き手:個性を磨くことについて書籍内でも詳しく書かれていますよね。おすすめのページはありますか?
谷古宇氏:まずは誰かに期待するのではなく自分で考えて行動することです。その繰り返しによって必ず自分の個性に気付き、その「考動」を少しずつ積み重ねていくと5年後または10年後に振り返ると大きな変化に気付くことができます。それを示しているのが5章の最後(P234)に解説している「図表5-2-8 まず身に付けたい習慣」です。
マネジメントする立場であれば、4章(P180~182)にあるジョハリの窓×人材SWOTの組み合わせ部分を読んでいただきたいですね。その人自身の内なる力を引き出し、自ら悟るきっかけを与える、「悟らせるマネジメント」をおすすめします。先ほど「ファクトが大事」という話をしましたが、これも相手が持っているファクトと自分のファクトを伝え合うことが大切です。
人の弱みばかりに着目せず、他の人からは見えていないようなものを話し合いながら組み合わせていくと、個性が見つかると思います。一人ひとりの個性が企業競争力の源泉です。だからこそダイバーシティが求められているのであり、私の名刺に記載している「人と企業の個性を競争力に。」という言葉はWAIコンサルティング社の活動指針なのです。
聞き手:読者の方に本書を読んでどんなことを感じてほしいですか?
谷古宇氏:ご自分の個性を再認識して、日々磨いていくことで自信を持っていただきたいです。仕事をしていると楽しいことばかりではなく、嫌な思いをすることの方が多いと思います。その中で、個性を見失って思考停止をしてしまうことがあります。かくいう私も上述のように自信を持てないために個性を見失ってしまったことがあり、最大の失敗だったと感じています。
また、未だに日本には若い人たちの個性を押しつぶすような風土、文化があるとも感じています。しかし、多様な個性による集団は組織の強みになり、変化の激しい現代ではそれが必要なのです。個人と組織の関係は難しい部分も多いので、詳しくはぜひ書籍をご覧いただけると嬉しいです。
聞き手:本日はありがとうございました!
投稿者プロフィール

- ラーニングス株式会社
アドバイザー/ブックライティングサービス『ひよどり』サービス運営統括責任者
大学時代は近世文学を専攻。 日本語教師の資格を持つ。
400名以上の経営者、士業の専門家へのインタビュー経験があり、Webメディアを中心に記事を執筆。
書籍の企画~出版を行うだけでなく、出版記念のウェビナー等、イベントの企画運営も行う。
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