出版が差し止めになるケースと注意点

時間をかけてようやく出版できた本。しかしさまざまな理由から、出版が差し止めになるケースがあります。

せっかく出版したのに差し止めになってしまうという、最悪の事態を回避するためにも、差し止めになるケースと注意点について確認しましょう。

今回は、そんな出版が差し止めになるケースと、実例、注意点について、詳しくご紹介します。

 

【監修者】
 梶田 洋平
 ラーニングス株式会社 代表取締役
大学卒業後は証券会社に入社し、5年弱勤めて退社した後、出版事業を手掛ける会社を起ち上げる。
大学時代からこれまで自身が著者で出版した本は16冊、読んできたビジネス書・実用書は3,000冊以上。はじめて本を出版する企業や個人事業主の方を対象に、出版でビジネスを加速させるお手伝いに力を入れる。

 

 

出版の差し止めとは

「出版の差し止め」とはその名のとおり、何らかの理由により出版を中止することです。

出版の差し止めの対象となると、出版及び販売は中止され、その本を売ることはできなくなってしまいます。

出版の差し止めは、裁判で競うこともあるなど、特に有名な作家であれば大きな話題となることも少なくありません。

 

出版が差し止めの対象になるケース

出版が差し止めとなるのは、ごく一部の本です。出版を差し止めされるということは、何かしらの理由があります。

ここからは、出版が差し止め対象となる項目として多いケースを4つご紹介します。

 

 著作権

小説、音楽、美術、アニメなど、それを作った人がそれぞれ自分の考えや気持ちを作品として表現したものを「著作物」、著作物を創作した人を「著作者」と言います。

「著作権」は、法律によって著作物に対して著作者に与えられる権利のことです。著作権法及び民法によれば、著作権侵害に対しては、差止請求や損害賠償請求できると規定されています。

出版した本の内容が「著作権」に引っかかってしまった場合、出版の差し止めの対象となり、損害賠償請求されることもあります。

著作権に引っかかると分かった場合には、出版前にその箇所を変更するか著作者の了承を得なくてはなりません。

 

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プライバシー侵害

「プライバシー侵害」とはプライバシー情報を他者にみだりに公開されない権利である、「プライバシー権利」を侵害する行為のことです。

プライバシー侵害は、プライバシー上の事実を許可なく記していた場合に、出版差し止めになります。

例えば登場人物を実際に存在する人にしていた場合、その人の日常生活や住所、疾病、結婚や離婚などの身分行為などを記す場合には、必ずその人から許可を得ておく必要があります。

起訴され裁判となることもあるため注意しましょう。

 

名誉毀損

「名誉毀損」とはその名の通り、他人の名誉を傷つける行為のことで、「名誉棄損」と記されることもあります。

名誉毀損は刑法230条で定義されており、出版の差し止めだけではなく、民事上・刑事上の責任を負わなくてはならない恐れもあります。

名誉毀損は、公然・事実を摘示・名誉を毀損の3つのいずれかに該当すると、対象となります。「公然」とは、不特定多数の人に不名誉なことを言った場合などに該当します。

また、TwitterなどのSNSで芸能人を誹謗中傷する行為も、公然にあたります。「事実を摘示」とは、事実ではないことを周囲に広めた場合に該当します。例えば「前科がある」や「不倫している」など、虚偽の情報を流すなどです。

「名誉を毀損」の「名誉」とは、「社会的名誉」のことです。個人や企業が、社会から受ける名誉を損なった場合に対象となります。

 

名誉感情侵害

「名誉感情侵害」は、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為である」と認められた場合に対象となります。

判断基準は「社会通念上許される限度を超える」か否かです。

分かりやすく例えると、プライドを傷つけられた場合に「名誉感情侵害」に該当する可能性があります。

侮辱する言葉に明確な定義はないものの、放送禁止用語などは名誉感情侵害に該当する場合があります。

名誉感情侵害に引っかからないためには、過激な言葉を乱用するのは控えた方が良いでしょう。

 

実際にあった!出版が差し止めになったケース

これまで数え切れないほどの本が出版されています。これらの本の中には、出版差し止めになったものも多くあります。

今回は実際にあった、出版が差し止めになり、話題となったケースを3つご紹介します。

 

「石に泳ぐ魚」事件

主にプライバシー権の侵害が原因となり、出版が差し止めになったケースです。

小説「石に泳ぐ魚」について、そのモデルとされた作者の知人女性が、公表を望まない個人情報を掲載したことによるプライバシー侵害とともに、名誉毀損や名誉感情侵害もあるとして、出版差止めおよび損害賠償と謝罪広告を求めました。

その後裁判が行われ、東京高裁ではプライバシー権の侵害による差止請求を認め、最高裁もこの判決を肯定し、出版が差し止めとなりました。

差し止め請求が認められるのは、原則として明文の規定が必要です。しかし今回の判決で初めて、法律の明文の規定が無いにもかかわらず、プライバシー権の侵害による出版の差し止めが認められました。

 

田中真紀子長女記事出版差し止め事件

プライバシー権の侵害が差し止めの原因となったケースです。

当時国会議員であった、田中真紀子さんの長女の記事を掲載した週刊文春が2004年3月17日に出版されるのに対し、差し止めの仮処分が行われたことによる事件です。

週刊文春の記事では、田中真紀子さんの長女の離婚に関する記事が掲載されることとなっており、長女のプライバシーを侵害しているとして東京地方裁判所による差し止めの仮処分が行われました。

すでに74万部が出荷されていたため、出荷していない残りの3万部の出荷が中止となりました。

しかし、すでに出荷された74万部に対して回収は行われていません。さらに、差し止めの仮処分が行われたことが話題となり、出荷された本が売れるという事態になり、差し止め仮処分による利益はほとんどありませんでした。

後に週刊文春側が異議を申し立て、東京高裁により仮処分が取り消されました。

 

北方ジャーナル事件

名誉毀損による出版が差し止めになったケースです。

この事件は、日本の公職選挙の候補者が、名誉毀損にあたる出版物の出版の事前差し止めを求め、出版社側はこの請求に対する損害賠償を求めた事件です。

名誉毀損による差し止めを認めるのか、事前差し止めが検閲に当たるのかが争点となり大きな注目を集めました。

一審も二審も、事前差し止めが検閲であり違法行為であるという、出版社側の損害賠償の請求を棄却し、最高裁判所に上告しました。結果、上告は棄却され、人格権としての名誉権の侵害が認められ出版等の事前差し止めが行われました。

 

 

出版が差し止めになる際の注意点

長い時間と多額の費用をかけて出版した本が、差し止めになってしまうという最悪の事態を防ぐためには、著書及び出版にあたり注意点があります。

前述した出版が差し止め対象となるケース4つについては、特に注意が必要です。

 

出版にはさまざまな形があります。
出版社が関わる出版の場合、デザイナー、ライターなど多くの人が出版に携わります。

デザインを決める際の写真やイラストが、著作権に引っかからないか、ライターが記した言葉は適切か、実在する人物が登場する場合にはプライバシー権の侵害や名誉毀損に該当しないかなどを、しっかりと確認する必要があります。

特に出版社の著作権をめぐる紛争では、出版社は直接的な当事者としての侵害の場合だけでなく、間接的な侵害の場合の責任を問われることも少なくありません。万が一、出版物の回収や廃棄が求められると損害は大きなものとなります。

また自費出版の場合には、出版に関する費用を全額負担するため、出版差し止めとなると出版費用のみがかかるだけではなく、損害賠償金なども負担しなくてはならないといった最悪のケースに陥ることもあります。

このような出版の差し止めを防ぐためにも、著作権、プライバシー権の侵害、名誉毀損、名誉感情侵害には、十分注意しましょう。

 

まとめ

出版の差し止めは、精神的なダメージだけではなく、社会的な信頼も失ってしまう恐れがあります。

本を出版したという経験は、大きなステータスになります。

しかし出版の差し止めになると、逆に信頼が失われ、社会的な地位も危なくなるという危険性もあります。出版の差し止めとなる項目を正確に把握し、しっかりと確認を行なってから出版するようにしましょう。

 

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投稿者プロフィール

マーケティング出版プラス編集部
学生や子育て中のママなど、様々なバックグラウンドを持つメンバーが所属。

出版をもっと身近に感じてもらうために、自分の家族や友達にも読んでもらえるような、分かりやすく丁寧な記事づくりを心掛けています。

これからも有益な記事を日々発信できるよう、尽力していきます!