今回は書籍『人と夢を技術でつなぐ建設コンサルタント』を出版されました、株式会社 長大(かぶしきがいしゃ ちょうだい)の加藤 聡(かとう さとし)氏と、宗広裕司(むねひろ ゆうじ)氏にお話をお聞きしました。
建設コンサルタントとは何か、50年にかけて手掛けた数々のプロジェクトについて、また日本と世界の未来を担う建設コンサルタントの役割を本書から見ていきましょう。
加藤 聡 (かとう さとし) 株式会社長大 執行役員 経営企画統轄部 統轄部長。 宗広裕司(むねひろ ゆうじ) 株式会社長大 執行役員 海外営業統轄部 統轄部長。 |
聞き手:こんにちは。まずは御社の主な活動を紹介してもらえますか?
宗広氏:株式会社長大は、「建設コンサルタント」で、簡単に言えば、いわゆる公共事業における技術的なコンサルティングサービスを行う会社です。
橋梁から道路、鉄道、交通、環境、情報や上下水道などをインフラストラクチャー(インフラ)と言います。こうしたインフラについて、ハード・ソフトの両面から、新規整備や既存インフラの維持管理・運営などにおいて、技術サービスを提供することがメインのビジネスとなっています。
中でも、長大が得意とし強みとしているのは橋梁になります。
聞き手:宗広様と加藤様のご経歴を教えてもらえますか?
宗広氏:私は大学院で土木を専攻した後、新卒で株式会社長大に入社しました。いわゆるプロパーで27年目になります。
入社後は、15年間にわたって、交通のエンジニアをやっておりました。交通計画や交通の情報化でITSと言われている道路交通のインテリジェント化です。中国の北京のプロジェクトなどにも関わり、北京市内の渋滞解消に向けて日産自動車さんと一緒に検討したこともあります。
その後、2010年に新事業開発を担う部署が新設されて、そこの部長として異動しました。まさに本書の第1章にある「インフラが人々を笑顔にする」の漫画に描かれている地域開発事業へとつながるわけです。
再生可能エネルギーの中でも初めは小水力発電の開発に焦点を当てて、東南アジアをターゲットにしていましたが、まずフィリピンのミンダナオ島に入り、その後はインドネシアやベトナムなどに展開していくことになりました。
現在は海外事業本部の海外営業統轄部長として、海外の営業全体を担当しながら、引き続き国内外の新事業開発を主導する役割を担っております。
加藤氏:私は、技術系のコンサル会社にいながら、いわゆる文系で、大学を卒業した後は出版業界に入りました。その後、社会人大学院で経営を学んだことから、外資系金融機関に移り、その後、2009年に長大に中途入社しました。
前職はオーストラリアに本社のある投資銀行で、インフラファンドの組成やインフラ投資・運営など、インフラの分野では世界的なリーディングカンパニーでした。
2004年にその投資銀行に入社して、私は有料道路の買収や買収後の運営を中心に、インフラをフィールドにした業務に携わりました。
他方で、長大は当時、1997年をピークに公共事業予算が年々減少するなど、非常に厳しい経営環境にありました。新たな事業の確立が必要でした。
同時に、少子高齢化と人口減少の問題や、国や地方の財政状況が大きな社会問題になっていました。限られた資金でインフラの整備や維持管理をしていくことが課題となりつつあり、民間活用なども謳われていた頃です。
インフラには、金融と技術が必要で、どちらかが欠けても成立しません。
こうした状況の中で、投資銀行時代に培った金融的なアプローチからのインフラ事業の経験が、技術をベースとする長大で活かすことで、自分自身の成長や長大にも新たな貢献ができるのではないかと考え、入社することにしました。
聞き手:書籍を出版しようと思ったきっかけは何ですか?
加藤氏:海外で事業を行っていて、当社のようなエンジニアリングファームや技術者の地位が高いことがわかりました。
他方で、新事業に取り組んで、それまで当社とお付き合いがない業界や会社の方とお会いすると、建設コンサルタントという存在が世間一般にほとんど知られていないことを何度も実感しました。
インフラは、人々の日々の生活や、安全・安心な社会を支える基盤です。
こうしたインフラに関わる建設コンサルタントや技術者のことを広く知ってもらいたいというのが、書籍を出版したいという想いだったと思います。
また、建設コンサルタントは、人が資産の会社です。
そういう意味では、いかに建設コンサルタントを知ってもらい、優秀な人材に入ってもらうかが非常に重要です。人材採用というのも一つの大きな出版の理由でした。
書籍をつくるにあたっては、欲しい人が手に取れることも重要だと思いました。そのため、自費出版ではなく、書店やAmazonで購入できるようにしています。
宗広氏:長大に入社する大半の新入社員は、実は土木エンジニアです。
大学には土木系の学科があって、そこでインフラに直接携われる分野があるのですが、今、大学の工学部でも土木はマイナーになって、志望人数も減ってきているようです。
インフラというのは、非常に幅が広く、実は土木だけではなく、他の工学系の知識も必要ですし、いわゆる文系の領域の知識も不可欠です。こうしたことも含めて、分かりやすい内容にして、多くの人に知ってもらいたいと思いました。
実は、調べてみると、これまで建設コンサルタントについて紹介する書籍がほとんどありませんでした。
インフラという分野に興味を持って、建設コンサルタントという業界を目指す人が増えて母数が広がっていくと、日本のインフラの技術やマネジメントで海外と戦っていける競争力の強化につながります。
「日本の質の高いインフラ投資」や「インフラシステム輸出」といった、海外展開における日本政府の戦略的な政策があります。これを後押しするような狙いもありました。
聞き手:改めて、建設コンサルタントとは何でしょうか?
宗広氏:インフラを定義すると、人々の生活に必要不可欠な機能となり、これには橋梁や道路、鉄道に加えて学校、病院、農業なども入ってきます。
建設コンサルタントは、インフラの「よろずや」だと思っています。
役所やゼネコン、製造業、サービス業など、どこにもインフラに関する困り事や悩み事、希望や期待があります。こうした相談に乗ったり、提案をしたり、実際に形にして実現するということを何でもやるわけです。
調査や計画、設計からインフラの事業の運営管理まで、これらをあらゆる形でサポートし、あるいはサービスを提供していく、こうした役割を担っているのが建設コンサルタントなのではないかと思います。
加藤氏:もともとインフラは行政が担っていました。それが、戦後から高度経済成長期にわたり、行政だけでは対応し切れないところを民間が代わって対応していくにあたって、建設コンサルタントという業態ができたのです。
ただ、それでは調査や設計など、行政からの委託業務だけをやればよいかというとそうではありません。
インフラはその地域に、オーダーメイドのようにつくっていくものです。また、一旦整備された後も、インフラは装置産業のようにその地域に根差すものです。
そこで生活する人たちの理解や同意を得る必要がありますし、いろいろな利害関係者とコミュニケーションを重ねながら業務を行っていく部分が多分にあります。
そのため、コミュニケーション能力というのも非常に重要だと思います。
聞き手:漫画やイラストを多用した構成になったいきさつを教えてもらえますか?
加藤氏:書籍の出版については、宗広との雑談の中で、冗談半分で出たのが最初だと思います。
非常にインパクトもあって面白いと思いましたが、普段の業務をしながら制作を進めなくてはなりません。それで、宗広にも私にもそれぞれ、建設コンサルタントや新事業開発について一部で取り扱っていた博士論文を執筆していたので、それを利用しながら制作しようということになり、企画書にまとめました。
それを社長に持って見せた時に、「書籍を出す企画は悪くない」と言われたものの、「文字だけの書籍では読まれない」「それ以前に面白くない」と言われました(笑)。
その後、何度か企画書を書き直すことになりますが、実は漫画を用いるのは、その中で出てきた社長のアイデアでした。
聞き手:出版までに苦労されたことはありますか?
加藤氏:制作期間が短かったことです。
春に企画書を出して、夏に制作を開始しますが、刊行は12月中旬に決まっておりました。
12月20日だったと思いますが、定時株主総会の開催があり、総会に来られる株主の皆様にお土産で配布することが決まっていたのです。
その上、当初予定していた二人の博士論文は、企画書が練り直される中で、ほとんど転用できるものがなくなっていました(笑)。
執筆に関与する人が多かったのも、苦労したところかもしれません。
第1章の漫画パートは漫画家さん、第2章の用語解説はライターの方に担当してもらいました。第3章の26の事例紹介では、各事業を担当した部門から26人の担当社員に執筆してもらっています。
作業は分担しても、文体や表現、表記のばらつきなどは揃える必要がありましたし、文字量なども指定がありますので、こうした全体的な調整も難しかったところです。
聞き手:本にして良かったと思うことは何ですか?
宗広氏:出版した2018年は、当社の創立50周年の年になります。
過去50年の代表的なプロジェクトを、写真や図面を用いながらまとめて、実施場所やプロジェクトに従事した関係者、社内の担当者を固有名詞で出しております。
建設コンサルタントは、言ってみれば、行政の裏方として業務を実施することがほとんどです。当社の社名はもちろん、関与した技術者個人の名前がオープンになることは極めて限定されます。
事前に関係各所に出版の許可を申請していますが、すべてご理解くださって許可を出していただき、建設コンサルタントの成果を書籍に残せたのは、手前味噌ながら、画期的と言ってよい、すごいことだと思っています。
今まで当社が、30周年や40周年といった節目で制作してきた社史とはまた違う意味で、当社のこれまでの歩みを集大成的にまとめられました。
非常に誇らしく、良いものが出来上がったと思っております。
聞き手:出版をして何か反響はありましたか?
加藤氏:Amazonの売上報告が四半期ごとに届きます。特に就職活動の時期は、明らかに売上が増えていて、おそらく就職活動をしている学生が手に取っているのかという実感を持っています。
過去には、本書を見て当社への入社を希望した学生もいたと聞いています。
営業先の会社にお配りして、「建設コンサルタントの仕事ってすごいことやってますね」「建設コンサルタントの仕事が社会の役に立っていることが良くわかりました」といった声を聞いたりすると、出版した意義があったなと思います。
聞き手:新たな書籍の執筆や今後の展望などはありますか?
宗広氏:最近は、第1章に漫画で取り上げた、フィリピンのミンダナオ島における地域開発の取り組みを、映像化しました。書籍があったから動画化しやすかった部分があるかもしれません。
現地に行って、ドローンも飛ばしながら撮影したものです。最初の訪問から、その後のプロセスでの成果や苦労についてもまとめています。
リクルートビデオとして編集したバージョンと、営業活動用に編集したバージョンがあります。営業用は、日本語と英語の2つのバージョンをつくりました。すべて当社のホームページから視聴できます。
聞き手:最後に書籍と会社のPRをお願いいたします。
宗広氏:長大という会社は、創立から50年以上にわたり、本書で取り上げたようなプロジェクトを数えきれないほど手掛けており、その一つひとつを、一人ひとりの技術者がワクワクしながら実現してきました。
もともと、本州と四国に橋を架けようという大きな夢を持った技術者が集まったのが、当社の起源です。
今でも、そうしたベンチャースピリットは、今なお、現役社員たちにも共通して受け継がれています。本書は、それを改めて思い起こさせてくれるものだと思います。
当社は、日本、そして世界で、インフラに対するサービスを提供し続ける集団・組織でありたいと思っております。
それに賛同・共感していただける人材であれば、新卒でも中途でも、性別・国籍を問わず、広く求めていることを、最後に宣伝させていただきたいと思います。
加藤氏:日本では今、高度経済成長期に整備したインフラが、その後50年余りを経て、老朽化しつつあり、厳しい財政状況の中、どのように維持管理していくのかが大きな社会課題となっています。また、人口減少と少子高齢化が同時進行する中、過疎が進む地域をどのように活性化していくのか、地方創生も重要なテーマです。
インフラと関わり、地域と関わってきた建設コンサルタントが、まさに今、その知識や知恵を余さず使い、こうした社会課題の解決に大きな役割を果たすことが求められています。
近年は特に、自然災害が激甚化、頻発化しており、日々の生活や経済活動を支えるだけでなく、安全・安心な社会を守るインフラの重要性が改めて認識されてきています。
建設コンサルタントが果たしている役割は、今後ますます大きくなるはずです。
そこに身を投じて一緒に働きたい、そういう会社で働きたい、そして社会の役に立ちたいというふうに思ってもらえると嬉しいですし、本書籍がそういうきっかけになれば、この上ない喜びです。
聞き手:それでは、インタビュー取材は以上になります。本日はありがとうございました。
『人と夢を技術でつなぐ建設コンサルタント』の詳細はこちら 本書は、建設コンサルタント業界や、建設コンサルタントの過去、現在、そして未来のあり方についてまとめたものです。 1章は、建設コンサルタントにみられる新たな事業として、フィリピンでの地域開発事業を取り上げて、ドキュメンタリータッチのマンガで紹介しています。 「一般社団法人建設コンサルタンツ協会会長 村田和夫会長 推薦」 ◆目次 2章 身近にある建設コンサルタントの仕事 3章 人と夢を技術でつなぐ26 の事例 4章 よりよい社会を実現するために アマゾンURL |
コンサルタントのみなさんの、理想の1か月の動きはありますか? 例えば、1か月のうち稼働日が22日だとすると、本業のコンサルの仕事が12日間、営業4日間、スキルアップのためのセミナー受講などで5日、のこりの1[…]
投稿者プロフィール
- 大学卒業後に出版社に就職して漫画の編集に携わる。
その後、さらに別の出版社を経てラーニングス株式会社に入社。
編集業務に従事している。
社内では『むーさん』の愛称で親しまれ、お父さん的なポジションを務めている。
プライベートでは野球観戦が趣味(広島ファン)で二児の父。