課長の哲学(新井健一・著)

今回は書籍『課長の哲学』を出版されました、新井健一(あらいけんいち)氏にお話をお聞きしました。

 

新井健一 (あらい けんいち)

経営コンサルタント。アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。

【1997年 4月 】
大手重機械メーカ入社 人事業務全般に従事

【1999年10月】
アーサーアンダーセン/朝日監査法人(現 KPMG /あずさ監査法人)入社
組織・人事及び業務改善に関わるコンサルティング及び教育に従事
KPMGあずさビジネススクールにてシニアマネージャー、スクール長に就任
ビジネススクール責任者として事業経営の傍ら、コンサルタント、講師業務に従事

【2010年11月】
経営コンサルタントとして独立
国の中小企業施策にもとづいた人材育成機関である中小企業大学校仙台校に
民間受託事業者として参画し、受託期間中に開校以来の圧倒的な集客を実現する他、
東北、関東、そしてアジアを拠点に活動中
プレジデント、ダイヤモンドオンライン等ビジネス・経済雑誌への寄稿、出版実績多数

 

聞き手:まずは、新井さんの経歴と活動内容をご紹介いただけますか?

新井氏:1997年に早稲田大学の政治経済学部の政治学科を卒業し、財閥系の重機械メーカーの人事部で3年ほど経験を積ませていただきました。
年功序列型賃金や終身雇用制の崩壊が来ると言われる中、専門的なスキルを身に付けたいと思い、外資系のコンサルティング会社に転職し、人事コンサルタントとしてのキャリアを積みます。

その後、2つの組織で企業人向けのビジネススクールのスクール長を経て、独立に至りました。
企業研修の講師と、企業の経営コンサルタントという2つのキャリアを軸に、株式会社アジア・ひと・しくみ研究所の代表を務めながら執筆活動をしており、今度出す本で10冊目になります。
あとは、BSジャパンで毎週金曜日の夜11時から、人事の専門家としてテレビに出演させていただいたこともあります。

聞き手:今回の『課長の哲学』を出版されたきっかけや、著書の内容を教えていただけますか?

新井氏:出版社から依頼をいただいて書くことが多く、『働かない技術』や『いらない課長、すごい課長』と同様に、今回も編集者さんから『課長の哲学』というタイトルを寄せていただきました。

2020年、緊急事態宣言後の5月から8月ぐらいまでの期間、なかなか筆が進まないときの執筆だったので、昔読んで感銘を受けた著書を振り返りながら一生懸命書きましたね。
今住んでいる横浜の他に、書庫のある別宅が栃木にあるんですが、県を超える中で車のナンバーを気にしながら恐る恐る行って、帰って来て。

コロナ渦で社会不安が広がる中、期待と不安の中を泳ぐように情報収集しつつ、アフターコロナの世界におけるテクノロジーの進歩と、働き方改革の光と影について、特に課長に着目して書きました。
日本企業では、課長以上は完全に会社の人間で、課長以下はまだ労働組合員だったりするので、各々の価値観が交錯する中、それをまとめなきゃいけない課長は一番大変なんですよね。
欧米みたいに国の宗教が確立していない分、企業で道徳教育を行う必要がある日本では、協調性や積極性などの、人事評価でいう情意評価の教育責任者が課長だったりします。

それに、意思決定のシステムでも、アメリカでは基本的にトップダウンしかないのに対し、日系企業ではトップダウンとボトムアップ、更にはミドルトップダウンまであるので、日系企業の課長は非常に多くの能力を発揮しなければいけない立場だと思います。

更には、8人に1人ぐらいしか課長になれないという統計もあるので、30代から40代前半ぐらいで課長になれるかどうかで、その方のその会社でのキャリアが大体決まってくるという点でも、1つ象徴的な存在になりますね。

聞き手:執筆にあたって注意したことや気を遣ったこと、終えた後の反省点などはございましたか?

新井氏:本を書かれる方に気を付けていただきたいのは、執筆に集中しすぎないことです。
以前、時間がなくて230ページぐらいの本を一週間で書いたこともありますが、物凄く集中してパソコンに向かっていると、気が付くと体が硬直化しちゃったり、他の仕事に支障が出るほど体が悪くなったりして、整体に行っても、ちょっとやそっとじゃ治らないんですよね。
執筆中に疲労骨折した人もいるそうなので、適度な運動やリフレッシュで余裕を持つことが大切だと思います。

ですが、一方では継続性も必要で、あんまり筆を置いちゃうと思考の一貫性を取り戻すのに時間がかかるので、ペース配分はしっかりしていただくのが良いと思います。

反省点としては、テーマに関する知識や情報が、ご依頼を受けた時点で自分の中で完全に成熟しているときと、成熟する過程のときがあるんですが、『課長の哲学』は後者だったので、情報への解釈の成熟度が甘かったかな、もう少し突っ込めたかな、とも思いますね。

聞き手:数多く執筆されている新井さんですが、書籍を出すメリットがあれば教えていただけますか?

新井氏:問題意識を書くことで自分の中の情報がリセットされ、空っぽになった箱の中に、問題意識の延長線上にある情報や答えが新しく入ってくるので、書籍を出すことでさまざまな情報が常に新しい状態に保たれるのが良いですね。

あとは、本をお渡しすることで自己紹介にもなります。
ただ、出版社で決めていただいたタイトルの中には結構過激なものもあるので、企業の部課長さんとお会いした際に『いらない課長、すごい課長』を献本するときなんかは、「こんな過激な思想は持ってないんですけど…」とひと言そえることもありました(苦笑)。
他にも、書籍によっては、海外の出版社からも出版してもらったり、台湾の日本語検定の試験問題になったり、企業の昇格者研修や次世代リーダーの養成研修の副読本として使っていただいたりもしています。

聞き手:今後、「こういうものをやっていきたい」という展望はございますか?

新井氏:次回作では、ビジネスの横串の通し方についてまとめています。
ここ数年は「次世代リーダーを養成してほしい」というご依頼が多く、一通りのビジネス分野を担任みたいに一人でお教えていました。

企業側からすると、経営戦略や組織マネジメントなどそれぞれの講義で単科ごとに知識を深めても、それを合わせ技で理解した上で、経営の課題解決に向かうのが難しいという問題意識があるそうで、そんな中で「横串を通して教えてもらえませんか?」というお話をいただいたのが出発点でした。

幾つもの会社で教えさせていただいた経営戦略や財務、マーケティングや組織マネジメント、目標管理や人事評価のノウハウを1冊にまとめたので、300ページを超えるぐらいの大著になる予定です。

今後の展望としては、これからAIやITと共存していく時代に大事なのは、ビジネスからちょっとズレた哲学やアートの分野だと思うので、それらとビジネスを繋ぐようなポジションで本を書いていけたらと思っています。

聞き手:最後に、経営者の方を含め、読者の方にメッセージをお願いいたします。

新井氏:今の世の中は過去の延長線上に未来がないので、目先の問題を解決していけば確実な未来がやってくるというわけではないんです。
人をリードする立場の皆さまは、メンバーをどこにリードするかという部分から考える必要があるので、そのために色んな情報源を辿って未来を知っていただくことが何より重要だと思います。

例えば、経産省や総務省などの官庁名を入力して未来予測をすると、複数の官庁が同じような仮説を出していることが分かるので、そこからバックキャスト(未来を起点に現在を考える思考法)したり、この本に書いた私なりの未来予測を手掛かりにしたりしながら、今何をすべきなのかを考えていただくと良いかと思います。

それから、『課長の哲学』では「どうやってキャリアを生きていくか」ということにも触れています。
今、定年70歳が努力義務になり、更に75歳定年制となると、企業ではその人のキャリア全体を背負いきれなくなり、キャリアの主導権は個人に戻ってくると思うんです。
企業が強力な人事権を行使して、家庭を顧みずに企業活動に巻き込んでいた時代から、生涯キャリアの自己管理時代に変わっていく中で、どんなふうにキャリアを全うするかということも書いています。
ですので、経営者の方には未来を知る手がかりに、企業にお勤めの方には、キャリアを検証していただくための一つの物差しにしていただけたらと思います。

聞き手:お話聞かせていただきありがとうございました!

 

『課長の哲学』の詳細はこちら

「課長」こそが、日本復活のキーパーソンだ。いま、日本の企業は多くの問題を抱えている。向上心のないゆとり世代の育成、進まない女性活躍の推進、予想できない未来とAI時代の到来・・・それらの課題を解決できるキーパーソンこそ、現場のリーダーである「課長」だ。本書では、課長が後進のために新たなロールモデルを再構築するための、「哲学」を示す。その哲学とは、「本質的な問いを立てるヒントを提示する」「問いを仮設する」「そもそもの問いを考えてみる」スキルのことだ。世界、経営、部下、自分、そして教養の5つの領域から、学びや自らの考えを得るための視点を紹介する。AI、テレワーク、5G、ダイバーシティ、SDGs…未来を描くために知っておきたい情報を手に入れ、信頼されるリーダー像を再構築せよ!

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投稿者プロフィール

下村(むーさん)
大学卒業後に出版社に就職して漫画の編集に携わる。
その後、さらに別の出版社を経てラーニングス株式会社に入社。
編集業務に従事している。

社内では『むーさん』の愛称で親しまれ、お父さん的なポジションを務めている。

プライベートでは野球観戦が趣味(広島ファン)で二児の父。